今すぐメシ・風呂・寝るの生活をやめなさい(前編) 立命館アジア太平洋大学(APU)の出口学長に聞く

「自分のアタマで考えろ」親や上司からそう言われたことがある人は多いのではないでしょうか。考える、その行為は誰もが当たり前にしている行動なはず。しかし改めて「考えるとは何なのか」と問われたとき、正しい答えがわからなくなります。

特にビジネスでは考え方によって結果が異なり、自身の将来に大きな影響が出ます。結果を出す人、出せない人。結果を出してきた方はどんな考え方をしているのか——。

今回は立命館アジア太平洋大学(APU)でライフネット生命保険創業者の出口治明(でぐち・はるあき)学長に話を聞きました。

この記事のポイント

  1. おいしい人生を因数分解する
  2. 向き不向きに気づく
  3. 「タテ・ヨコ・算数」で考える
  4. 「メシ・風呂・寝る」をやめて生産性をあげよう

考え抜くためには因数分解が大事

出口さんにとって “考え抜く” とはどのような行動のことを言いますか?

料理に例えたら分かりやすいと思います。まず「おいしい料理とまずい料理、どちらが食べたいか?」と質問する。そうすると全員が「おいしい料理」と答えますよね。

では次に「おいしい料理をつくるにはどうするか?」ということを考えるのです。要は「おいしい料理」を因数分解する。その答えは食材×調理力です。いい食材だけそろえても、うまく調理するスキルがないとおいしい料理にはなりません。

それを人生に置き換えてみてください。おいしい人生とまずい人生どちらを選びますか?おいしい人生ですよね。そして「おいしい人生」も因数分解するんです。食材に相当するのが「知識」、調理力に相当するのが「考える力」となります

まずは知識を貯えるのが大事。でも知識というのは知っているだけでは役に立たない。いろんな知識を持っていて、それを自分の頭で考えて組み合わせて自由に使えれば、言い換えると、知識を応用できてはじめて「おいしい人生」になる。

考える力をつけるには「考えるプロ」の真似をする

料理に例えるととても分かりやすいと感じました。では 調理力に相当する「考える力」をつけるためにはどうすればいいのでしょうか?

それは簡単です。また料理に例えてみましょう。うまく調理したい場合、何から始めるでしょう。

レシピです。誰かの真似をすればいいんですよね。そして素人のレシピと三ツ星シェフのレシピ、どちらがおいしいかと言うと三ツ星シェフです。

考え方も同じ。考えるプロの考え方を真似ればいいんです。考えることは誰でもできますが、考える力がはじめからあるはずがない。

じゃあ考えるプロとは誰か? それは例えばアダム・スミス、デカルト、アリストテレス。そのあたりがプロでしょうね。僕は歴史や古典から学ぶことが何よりも重要だと考えています。

大学でロジカルシンキングを鍛え、自分に合う分野を見つけるべき

歴史や古典が苦手だという人も多いかと思います。学ぼう! と思って読んでも「分からなかった」となってしまう人はどうすればいいでしょうか。

そこはもう、なぜ学ぶのかということが腹落ちしているかどうか、ですね。

本当においしい料理を食べたいのか、つまり本当においしい人生を送りたいのか? ということへの腹落ちです。そこに腹落ちしない、考えることが嫌い、苦手、そう思うならリーダーになる必要はないんです。リーダーにならなくても自分の役割はあります。

デカルトの『方法序説』は100ページちょっとの薄い本。ビジネスパーソンでこれが読めない、読んでわからない、という人はリーダーには向いていないと思うべきです。

自分の向き不向きに気づくために大学があります。大学は自分のやりたいこと、向いていることを見つける場所です。社会に出てビジネスパーソンになる前に、大学時代にしっかりとロジカルシンキングを鍛えるべきです。

考え方は「タテ・ヨコ・算数」が基本

「大学でもっと勉強すべきだった」と思いながら読み進めている読者も多いと思います。そんな風に思っている社会人におすすめな考え方はありますか?

考え方の基礎は簡単です。タテ・ヨコ・算数です。

タテ(縦)は「昔はどうしていたか?」という歴史、ヨコ(横)は「世界の人はどうしているか?」という視点、そして算数は「データをみる」ことです。

例えば夫婦別姓。源頼朝は平(北条)政子と結婚して鎌倉幕府を開いています。夫婦別姓は昔から今までずっと続いていると考えている人もいますが、タテで考えると鎌倉時代に夫婦別姓の記録があるわけです。つまり日本の伝統は明治までずっと夫婦別姓だったのです。

ヨコでみても、世界で夫婦別姓が特別なことではないのがすぐにわかります。経済協力開発機構(OECD)加盟の先進国37カ国の中で法律婚の条件として同姓を強制している国は日本以外にありません。

このように、1つのことをタテとヨコで考えるのはとても重要ですね。

あとはデータで考えることです。データをみるときは「アップル to アップル」が大切。似たもの同士を比べる、という考え方です。経済の観点では、ともすれば日本とアメリカを比較しようとする人が多いのですが、この2つの国は国土の広さも人口も違いすぎるし、アメリカは世界最大の原油生産国。比較にならないものを比較してはいけません。

日本はアメリカと比較するより、ユーロ圏の国々と比較したほうがいい。日本と国土の広さや人口が近い先進国はフランスやドイツです。そこは石油も出ないので良い比較対象になります。

彼らは労働時間が1年で1300時間から1500時間ぐらいで、成長率は1.8%(編集部注:ユーロ圏の成長率)。日本は正社員の労働時間はずっと横ばいで年2000時間ほどです(編集部注:パートなど非正規雇用者を含むと約1700時間)。成長率は1.0%で、日本がどれだけ生産性が低いか、データを見るとすぐにわかります。

たとえば日本人がフランスに旅行に行ったら「店員の応対レベルが低かった」というように感じることがあるかもしれません。でもそこで「フランス人より日本人は仕事ができる」と判断するのは間違っています。データでみれば、日本よりもフランスのほうがはるかに生産性が高いのです。

つまり日本のマネジメントがなっていないということです。長時間労働しても成長率が低いのですから。どうすれば生産性が高くなるのか、リーダーが考え抜いていかなければなりません。

今すぐ「メシ・風呂・寝る」の生活をやめて「人・本・旅」に切り替えよ

生産性をあげるには「人・本・旅」です。

工場などの製造業と、アイデアを武器にして仕事を進めるサービス産業では働き方が違います。前者は均質な労働力。後者は豊かな個性を大事にして、考え抜いていいアイデアを出すことが重要。

そのためには「メシ・風呂・寝る」の生活をやめなければいけません。

長時間働き、ご飯を食べて風呂に入って寝るだけの生活を送っていては、新しいアイデアを出す力が鍛えられるわけがない。今すぐ「人・本・旅」の生活に切り替えよ、と言いたい。

たくさんの人と会う、たくさん本を読む。旅というのは「現場」に行くことです。早く退社して、流行っているお店や人が多い場所へ行く。脳に刺激を与えないといいアイデアは生まれません。いいアイデアが生産性を上げる唯一の方法ですから。

[ライター:桜口アサミ]

[後編の記事はこちら]

プロフィール

インタビュイー 

出口 治明(でぐち はるあき)氏

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。1972年、日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て退職。2008年、ライフネット生命を開業、社長・会長を10年務める。12年上場。17年に退任。18年1月より、現職。主な著書に『全世界史(上下)』(新潮文庫)『0から学ぶ「日本史」講義』(文藝春秋)『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)などがある。

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