「自分のアタマで考えろ」親や上司からそう言われたことがある人は多いのではないでしょうか。考える、その行為は誰もが当たり前にしている行動なはず。しかし改めて「考えるとは何なのか」と問われたとき、正しい答えがわからなくなります。
特にビジネスでは考え方によって結果が異なり、自身の将来に大きな影響が出ます。結果を出す人、出せない人。結果を出してきた方はどんな考え方をしているのか——。
今回は立命館アジア太平洋大学(APU)でライフネット生命保険創業者の出口治明(でぐち・はるあき)学長に話を聞きました。
この記事のポイント
- 企業が変わらないなら自分の行動を変えてみる
- 適材適所は自然に見つかる
- スキルの前に本質を鍛えよう
合理的な思考が弱いのは日本企業の採用基準が悪い
人・本・旅は「たしかに」と思う一方で、すぐに切り替えるのは難しいかもしれません。忙しさに追われ合理的な思考を鍛える時間もない、という人も多いかと思います。
合理的な思考が大切であると多くの人が分かっているはずなのに、合理的な思考が弱い人が多いと感じています。
その理由ですが、僕は日本企業の採用基準がまちがっていると思っているのです。
いい大学に入れさえすれば、大学で勉強しなくてもいい企業に就職できてしまう。
グローバル企業は採用時に大学の成績をみています。だから学生は必死で勉強する。
大学のレベルはどうであれ、自分の選んだ大学でいい成績を残すということが大事なんですよ。つまり、大学の成績というのは企業でのパフォーマンスを示しているからなんです。
成績がいい学生なら自分で選んだ企業でもいいパフォーマンスを出してくれるだろうと考えるのは当たり前。でも日本はこの当たり前のことをやらない。だから学生が勉強しない。
大学はロジカルシンキングを学ぶところですが、勉強しないのですから合理的な思考が強くなるはずはありません。社会全体が低学歴になってしまいます。根本的には、日本企業の採用基準を成績重視に変えなければいけません。
ただ、企業が変わらなくても自分の振る舞いは変えられる部分があるのではないでしょうか。本を読むのは、毎日30分もあればできる。スキマ時間にもできます。
まずは自分ができるところから、ですね。
「人は育てられる」という考えがおかしい。「育てる」ではなく「見つける」
企業で考え抜ける人材を育成するにはどうすればいいのでしょうか?
前提として、それぞれの人には適性というものがあります。適材適所です。
もともと考えることが苦手だという人に対して、考える力を育てようとすることが間違いです。
例えば、学生時代の部活。運動部だとしましょう。その部に新入生が入ってきたとき、誰が次のエースで、誰を中心に次のチームを作っていくかというのを割と早い段階でみんなが判断できますよね。
その運動の経験だけではなく、その新入生の身体能力や素質、努力のやり方などでわかるんじゃないですか。
みんな、部活では適材適所を自然に選ぶことができてきたのです。ビジネスでも同じ考え方でいいんですよ。
人を育てられるなんて思ってはいけない、人材は見つけるものです。個性を伸ばすのが教育であって、金太郎飴のように同じような人材はつくらないことが大切です。
ただ、最初から「この考え方はこの人にはハードルが高い」などというあきらめはダメ。部活でも、中心にならない選手だからって甘やかして育てたらダメですよね。
スキルは陳腐化する。大切なのは探求力
部活時代を思い出し、強く納得しました。ビジネスでリーダーになりたい人へ「考え抜く」にはどういった姿勢や目線が必要か教えてください。
基本的にはすべての物事に対して「なんでこうなるんだろう?」という問いを立てる姿勢が大切です。
当たり前と思われることにも「なんで? なんで? なんで?」と疑問を持つことです。大切なのはこういった探求力。
いまは世の中の動きが早く、スキル自体はどんどん陳腐化していきます。だからこそ、ものごとの本質をとらえる探求力のウェイトが今後ますます大切になっていきます。
例えば子どもへの教育に「プログラミングスキルが大切」と言われる昨今ですが、スキルやノウハウだけを学んでも、子どもたちが大人になる頃にはそのスキルやノウハウはおそらく役に立たなくなっているでしょう。
学ぶべきはスキルではないのです。
読解力や数学的素養、統計的発想などの本質を見極める能力を鍛えるべきです。
ビジネス書より古典、「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」
では最後に、読者へおすすめの本を教えてください。
最近流行っているようなビジネス書は捨て、古典を読みましょう。10冊のビジネス書を読むより1冊の古典を読むほうが遥かに役に立ちます。
おすすめの本は例えば『貞観政要(じょうがんせいよう)』です。これはリーダーになりたい人の必読書。
僕が出している本『座右の書 貞観政要 中国古典に学ぶ 世界最高のリーダー論』(角川新書)を読めば『貞観政要』も理解しやすいと思いますよ。
他はデカルトやアダム・スミス、これぐらいの本は必ず読む必要がありますね。
最初に述べたように、考える力をつけたければ考えるプロの真似をするしかないのですから。
真似るというと簡単ですが、歴史書を読み解くのはどうしても「難しそう」というイメージはあります。
デカルトの『方法序説』は100ページちょっとの薄い本です。学生でも読めますよ。
「難しい」という固定概念を捨て、まずは1行1行じっくり考えながら読んでみてください。「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」は本質を捉えている言葉だとわかるはずです。
[ライター:桜口アサミ]
プロフィール
インタビュイー
出口 治明(でぐち はるあき)氏
1948年、三重県生まれ。京都大学卒。1972年、日本生命に入社、ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て退職。2008年、ライフネット生命を開業、社長・会長を10年務める。12年上場。17年に退任。18年1月より、現職。主な著書に『全世界史(上下)』(新潮文庫)『0から学ぶ「日本史」講義』(文藝春秋)『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)などがある。
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