松本 晃(まつもと あきら)氏

考え抜くとは何か【後編】松本晃氏(カルビーをV字回復させたプロ経営者)

前編の記事はこちら

結果を出してきた人はどんな考え方をしてきたのか。どうすれば“考え抜く”ことができるのか。知りたいビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。

今回、話を聞いたのは「プロ経営者」と呼ばれる松本晃(まつもと・あきら)氏。ジョンソン・エンド・ジョンソンやカルビーの業績をV字回復させました。その後はRIZAPグループの構造改革を手掛け、現在は、環境関連の新規事業に挑戦しています。 

松本氏にとって“考え抜く”とは? 成功のために必要なこととは?――インタビューで迫りました。 

この記事のポイント

  1. ビジネスの必修科目は「経理・法律・英語」
  2. 考える力を養うため、「なぜ」を持つ癖をつける
  3. 考え抜いて、世のため人のために働いて、そして結果を出そう

法律の「本心」を考え抜け

考え抜くことと同様、勉強も大事なのですね。今の時代のビジネスパーソンが学ぶべきものとは何でしょうか?

成功するためには、その分野で必要なことを勉強する必要があります。ビジネスで成功したければ、ビジネスにとって必要な学びをしっかりすること。

21世紀にビジネスで成功するためには3つの必修科目があります。それは経理、法律、そして英語。法律は、もっと言うと「法律のココロ」です。法律が何のためにあるか、そのココロを理解することです。なにも弁護士になるわけじゃないんだから、法律の詳細を知らなくていい。でも「何のための法律か」は分かっておく必要があります。

例えば、リコールは何のためにある法律だと思いますか? 多くの人は「不良品を返品できるように、顧客のためにある」と思っているんです。間違いではないですが、この法律はメーカーのためにも大切な法律なんです。

不具合のある商品を作ってしまっても、きちんとした手続きをして顧客に周知し、無料で修理をすれば周知した後は顧客にも責任があるよ、という法律です。

こういう背景を知らないと「不具合=恥」として不良品を隠そうとする経営者が出てきてしまう。自分たちを守ってくれる法律があるのに、それを理解していないからダメな道にいく。

これはリコールだけじゃなく、M&A関連でも言えます。法律が何のために作られたのか、それをしっかり理解することがビジネスで成功するために必要です。ただし、法律の本心を知ることは法律の裏をかくことじゃない。グレーなところをうまく使ってやろうとするとだいたいダメになります。

好奇心が大切

知識や経験を得る前の若い人に大切なことは何かありますか?

何かを知りたいという「好奇心」が大切だと思います。アタマはいい必要はないけど、アタマを柔らかくしておく必要はある。

ビジネスでもスポーツでも、成功している人はほぼ全員「考え抜く」ことができています。一部の天才は思いつきで成功するかもしれませんが、そんな人は世界でほんの一握りでしょう。

若い頃からいろいろなものを見て、学び、吸収することが大切です。そして、できるだけたくさんの引き出しをつくる。その引き出しがいつか役に立ちます。

ビジネスの場合、考え抜くことができているか否か、その答えは最終的には結果で見るしかない。それまでは、いろいろ経験するしかないのではないでしょうか。

重要なのは、答えではなく考えるプロセス

そもそも好奇心がないという人もいると思います。そういった人はどうすればいいでしょうか?

好奇心がなかったら、不思議に思う癖をつければいいです。「なんで?」「どうして?」とまず問うてみる。ピラミッドを見て「ああ、すごいな」「大きいな」で終わる人と「なんでこんな形をしているんだろう」「何の目的で、どうやって作ったんだろう」と不思議に思う人に分かれる。

後者の思考を今まで持たなかった人も、癖にしてしまえばいいんです。問えば自然と考えることができるようになります。

好奇心を持つと知りたいことがたくさん出てきます。今はすぐにスマホで調べられますが、松本さんのお若かい頃はまだありませんでしたよね。疑問に対しての答えはどのように出していましたか?

答えを知ることが重要なのではありません。興味を持ち続けて自分で“考え抜く”ということが大切なんです。だから、好奇心や疑問をもってわからないことがあっても、すぐにスマホで調べちゃだめです。

歴史なんて未だにわからないことがたくさんあるでしょう。それを考える行為そのものが大切で、発想の原点になりますし、考える力を養えるようになる。

好奇心と疑問を持ち続けていると、答えなんていつか出合うものです。

会社の経営は「じつに簡単」 そのココロは?

では最後に、読者にメッセージをお願いします。

人は何のために生きているか。私がそう問われたら「世のため人のため」だと即答します。でも世のため人のためになろうとするなら、何かの成果を出さないといけない。

教育者ならひとりでも多くの生徒に少しでもいい教育を与える、野球選手ならバッターボックスに立ってヒットやホームランを打つ。そしてビジネスパーソンなら数値的な結果を出す。儲けなければ結局、世のため、人のためになりません。考え抜くことは大事ですが、考え抜いていてもプロセスは評価されません。

わたしが徹底的な結果主義者と言われるのはそこなんです。Show me the money、論より証拠です。でも、結果を出すためには間違いなく考え抜かなければいけない。勉強もしなければいけない。

会社の経営なんて実に簡単。必要条件は「世のため人のため」、十分条件は「稼ぐこと」、これだけです。

ただこれを達成するためには今まで話したことをやり続けなければいけません。よく観察し、仮説を立て、即実行する。うまくいったら「もっとうまくいくためには?」と考えてまた原点に戻る。この繰り返しです。

[ライター:桜口アサミ]

プロフィール

インタビュイー

松本 晃(まつもと あきら)

京都大学大学院修了後、伊藤忠商事に入社。1993年にジョンソン・エンド・ジョンソンに入社し、1999年に代表取締役社長に就任。同社最高顧問を経て、カルビー代表取締役会長兼CEO、RIZAPグループ代表取締役を歴任。2019年にラディクールジャパンを設立し、設立時より代表取締役会長CEOを務める。

新着記事

ビジネスにおけるシンカを問う ビジネスにおけるシンカを問う

本メディアは、著名人の考え抜いた経験や
考え抜かれたビジネス、
考え抜く方法論などに
フォーカスした記事を通して、
「think Out」のための
ヒントをご提供することを目的としています。

thinkOutについて