「ググるな」本当に考える力をつける方法 ―東京大学 第28代総長 小宮山氏(前編)

日本最高学府の大学である東京大学で、最上位の役職である「総長」を担う人物はどのように考え抜いてきたのか——。今回話を聞いたのは第28代東大総長で、現在は三菱総合研究所の理事長をしている小宮山宏(こみやま・ひろし) 氏です。

小宮山氏は過去に講師や教授を経験し、学生とのコミュニケーションを多くとってきました。失敗も経験した上で現在のスタイルに至ったと言います。考え抜く方法と共に、部下のマネジメントに苦しんでいるビジネスパーソンへ、大きなヒントとなる話を聞いてきました。

プロフィール:小宮山 宏(こみやま・ひろし)氏 三菱総合研究所(MRI)理事長。工学博士。専門は化学システム工学、地球環境工学、機能性材料工学、CVD反応工学。1944年、栃木県生まれ。1972年に東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。東京大学工学部講師や教授、副学長などを経て2005年4月、第28代東大総長に就任。2009年3月で任期満了により総長を退き、現職。

この記事のポイント

  1. 課題と向き合っていると、答えがわかる時がくる
  2. 「おもしろそう」な方へ進む
  3. 反対意見に耳を傾ける

考え抜くために必要なものは「好奇心」と「課題に向き合う時間」

幼少期はどのようなことを考えて過ごされていましたか?

とにかく好奇心が強い子でした。今も強い方だと思います。なにごとにも「不思議だな」と思うことが癖です。

記憶にある1番最初の好奇心は「月が付いて来る」ということでした。自分が歩いていると、木は目の前からいなくなるのに、月はいなくならない。なんでだろう、とずっと考えていました。

今みたいに検索できない時代ですから、答えはすぐにわかりません。大人に聞いても当てにならない。忙しいから適当にあしらわれたりね(笑)

でもある時わかるようになったんですよね。中学生くらいかな、授業で学んで「だから月は付いて来ているように見えていたのか」と、答えがわかる。

ずっと何年も答えがわからないことはほかのことでもたくさんありました。でも「小学生のときの疑問が中学生でわかる」「中学生のときの疑問が大学生でわかる」こういう経験をすると、わからないことが出てきても「おもしろい」と思うようになったのです。

考え抜くために必要なものは好奇心ですが、厳密に言うと好奇心はきっかけです。興味を持ったものに対してすぐに答えを求めるのではなく、課題に対してじっくりと向き合う時間もやはり必要ですね。

「おもしろそう」が原動力

小宮山さんはアカデミックな分野で成功をされていますが、研究の道に進むようになったきっかけは何でしょうか?

きっかけは、おもしろそうだったから。これに尽きます。

大学4年生の夏に、ある実験を行いました。触媒の粒の大きさを変えて実験してみると、同じ原料から同じ化学反応を経ているのに異なる生成物ができたんです。当時、それが本当におもしろく感じたんですよね。

それで「もっとやりたい」と思い東大の大学院に推薦で進むことにしました。あまり大学院に進む人がいなかったので、そんなに競争率も高くなかった。それに私はスポーツばかりやっていて当時あまり勉強に時間が取れなかったので、推薦枠もギリギリでしたよ(笑)

人生は偶然の重なりですね。その時は深く考えずに大学院に進みましたが、院に入った後は自分でも研究を頑張ったと言えます。まずは「おもしろそう」を原動力にして正解でした。

反対意見に耳を傾けることが大切

研究は考える行為そのものだと思いますが“考え抜く”ために大切にしていることはありますか?

研究でも、研究じゃなくても、反対意見に耳を傾けるということを大切にしています。講師や教授をすると30歳ぐらいで「先生」と呼ばれるので、気をつけないと偉くなったと勘違いしてしまう。

実際に地位が高くなったとしても、偉そうにするのはダメなんです。研究は1人ではほぼ成り立たないんですよ。いろいろな意見を出し合い、議論する必要があります。

偉そうにすると学生はみんな黙る。何も意見しない、何もしゃべらない。そうすると研究が成り立たなくなってしまいます。私も教授時代、研究室で苦労してきました。

考えるためには議論が必要 議論のためには反対意見が必要

研究室によっては「教授は絶対」という縦社会の空気が大きく残っているという話を聞きます。そんな中で「歳下からの反対意見も聞く姿勢」というのは珍しいのではないでしょうか。

それはよく言われますね。若い学生がどんどん私に反対意見を言って来て、それを「うん、うん」と私が黙って聞く姿にびっくりする人もいます。「よく腹が立たないね」って。

でも、じつは反対されたら腹は立つんですよ(笑)でも我慢する。そうじゃないと他の人から意見をもらえなくなる。それが1番ダメなことですからね。

なぜなら、同じ意見ばかりでは議論にならないんです。正しい答えを導き出すためには議論は絶対に必要です。

私が信頼している人は皆、反対意見もちゃんと聞く姿勢を持つ人ばかり。聞く耳を持たない人とは議論ができません。

[ライター:桜口アサミ]

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プロフィール

インタビュイー

小宮山 宏(こみやま・ひろし)

三菱総合研究所(MRI)理事長。工学博士。専門は化学システム工学、地球環境工学、機能性材料工学、CVD反応工学。1944年、栃木県生まれ。1972年に東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。東京大学工学部講師や教授、副学長などを経て2005年4月、第28代東大総長に就任。2009年3月で任期満了により総長を退き、現職。

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