「思想をマニュアル化せよ」すかいらーく創業者が語る、商売の考え方 (前編)

「“作業をマニュアル化しないで思想をマニュアル化する”ってね、このあいだテレビ番組の『カンブリア宮殿』で言ったんだけど、あれは別にずっと思ってた言葉じゃなくて、あのとき思いつきで話したんだよ(笑) でも、うまいこと言ったよね」

そう気さくに話すのは、すかいらーく創業者の1人で、カフェチェーン・高倉町珈琲会長の横川竟(よこかわ・きわむ)氏だ。この取材テーマは“考え抜く”だが、横川氏は「僕は何も考えてないよ」と何度も言っては大きく笑った。

何も考えずに経営ができるものなのだろうか? そんな疑問を持ちながら話を聞いていくと、自分だけで考えるよりももっと大切なことがあるということがわかった。

現在82歳。家計を助けるために9歳から働き始め、社会に出て73年目。桜が綺麗に見える高倉町珈琲の事務所で、2時間ノンストップでパワフルに語った。

この記事のポイント

  1. 商売とは、お客さんの欲しいものを売ること
  2. 企業を経営し続けるためには、みんなに得があるような仕組みを作る
  3. 経営者は「自分の得」ばかりを考えてはいけない

どう仕事をするかより、どう生きるか

——“考え抜く”ために実践していることはありますか?

僕は何も考えてないですよ(笑) ただ考え方は父に影響を受けていると思います。

満洲に行っていた父は、僕が小さい頃に死んだので記憶にはない。でも毎年の命日に、当時父の部下だった人たちが、何十人と来ては父の話をしてくれました。

父は「日本を良くする」という気持ちでいた人間だったそうです。「自分のために生きた男ではない、人のために生きた男だった」という話を毎年聞いていました。そういう話を幼い頃にずっと聞いていると、自然と価値観が変わっていきますよね。

だから今も昔も「自分のためにやる」という気持ちよりも「人に喜んでほしい」という気持ちが大きいです。

どう仕事をするかより、どう生きるかが大切だと思っています。

商売の原点は「お客さんの手助けをすること」

——「人に喜んでほしい」という気持ちをうまくビジネスで反映するには、どうすればいいのでしょうか?
「俺が欲しいと思うから、みんな欲しいはず」と思っている経営者がいます。お客さんの好みと自分の好みは一緒であるという前提に立っているんですよね。

僕はそうは思わない。若い人も年寄りも男も女もいるのに、みんな同じはずがない。国が変わるともっと違うはずです。宗教や歴史や文化など、その国をしっかりと理解しないと海外進出は難しいでしょう。

僕が重要だと思うのは、自分の好みよりも「お客さんが何を欲しがっているのか、何に困っているのか」を知ることです。これが商売の原点です。

それを教えてくれたのは、10代後半から20代初めに築地で世話になったおやじさん。

「商売は嘘をつくな。いいものを売れ、余分に儲けるな」というのが口癖で、常に「お前の考えはどうでもいい。お客さんの手助けをしろ。売れるものがわからなかったらお客に聞いてこい」と言われていました。

今振り返っても、その時に教えてもらったことは商売の本質だと思います。

会社の経営をするようになっても、この商売の原点は忘れないですね。

経営はみんなが幸せでなければならない

——商売と経営は違うものということでしょうか?

違います。商売は、モノを売るだけでいい。自分ひとりが儲けることができればそれでもいい。でも経営は「正しく夢を持って働ける」とみんなが思えて、みんなが幸せでなければならない。

経営するなら、自分だけが大きな得をしようと思わないことです。誰ひとりとして、自分だけで何かを成し遂げられる人はいないんですから。

事業で関わる人間、例えば生産・仲介・卸・運送・販売など、いろんな人がちょっとずつ得するようにしないといけません。自分の得は最後です。

経営とは、このように「みんながちょっとずつ得する」という仕組みをつくることです。

この仕組みを作り、長く経営していると大きな得をするタイミングが出てきます。上場がその1つですね。

ただ、上場だって経営陣だけが得しちゃダメです。すかいらーくの上場時は、開店初期から頑張ってくれた社員には、なるべく自社株を渡してメリットが大きく出るようにしました。

どの会社も、経営陣と社員で責任の重さが違うから、金銭的なメリットの差があるのは仕方ない。でも格差が大きすぎることはダメだと思うんです。

欲の使い方を間違ってはいけない

——「成功したい」と思って起業する人が多いと思います。「経営はみんなが得をする仕組みをつくる」という考えに転換するには、どうすればいいでしょうか?

「成功したい」という欲はなにも悪くありません。

僕だって最初はそうです。「成功して腹いっぱい飯を食いたい」そう思って働き始めました。僕は学校に行ってないし、頭が良くないから難しいことはできない。だから身近な食品でやっていこうと決めたんです。

大事なのは欲の使い方を正しくすること。個人欲を出さないことです。

商売でも経営でも論理性のないものは消えていくんです。

1人だけが大儲けできるというのは論理性がないものです。質に対して異常に価格が高いものも論理性がない。一時期たまたま売れたとしても、そういうのは長続きしません。

例えば、ガソリン車から今後電気自動車にとって代わられます。それは環境と照らし合わせてみるとガソリン車が論理性のないものだからです。論理性のないものは続きません。

だから「成功したい」をイコール「自分だけ大きな得をしたい」と思っているなら注意したほうがいいですね。

[ライター:桜口アサミ]

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プロフィール

インタビュイー

横川 竟(よこかわ・きわむ)氏

1937年長野県生まれ。17歳で築地の食品問屋に入り、以後65年間「食」の仕事に関わる。

1970年兄弟でファミリーレストラン「すかいらーく」を創業、1980年コーヒーショップ「ジョナサン」オープン、2013年心の休憩所「高倉町珈琲」を創業。

「売れて・喜ばれて・儲かる」のが商売。

Photo @Tomoaki Miyata

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