「無駄づくり」が引き出す、考える力―藤原麻里菜氏インタビュー【前編】

藤原麻里菜氏,無駄づくり

「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」や「ネギ型特殊警棒」「札束で頬を撫でられるマシーン」など、不必要なものを発明してはYouTubeで配信する「無駄づくり」を主な活動としている藤原麻里菜さん。2013年夏にYouTubeで「無駄づくり」の配信を始めて以来、週に1作品のペースで、延べ200以上もの作品を制作し続けている。

2021年1月に発売した著書「考える術」は発行後即重版が決定するなど、今話題のコンテンツクリエイターだ。藤原さんにとって、アイデアを生み出し続けること、考え続けることの目的とは?

この記事のポイント

  1. 考え抜くとは、自分の中の心地よいところを探すこと
  2. 無駄づくりとはきわめて内面的なもののアウトプット
  3. とはいえ仕事でもある

「考え抜く」のは良くない

藤原さんにとって考え抜くとはどういうことでしょうか。

私は、考え抜くというのはあんまり良くない状態だと思っているんです。考え抜こうと意識すると、頑張りが目的になってしまう感じがして。頑張ることが目的になると、本来の目的からズレていくじゃないですか。

考え抜こう、頭をフル回転にしようとしても、全然その状態にはなれないと思います。それよりも自分自身と向き合って、身体的な心地よさや、自分の精神が充実する場所、ピタッとくる場所を探しながら、自分自身を知っていくことが「考え抜く」に近いと思っています。

「無駄づくり」のアイデアも、ある問題を解決する方法が無数にある中で、A案とB案なら自分の気持ちが心地いいのはB案だな、という感じで選びます。

藤原麻里菜氏,無駄づくり

「無駄づくり」は自分の内面を形にしたもの

藤原さんの主な活動である「無駄づくり」は、どんな目的で続けてこられたのでしょうか。

最初は単純に「無駄なものを作ってたら、面白いな」と思って始めました。そもそもは、NSC(吉本興業の養成所)を卒業して芸人を始めた時に、YouTubeの企画を立ち上げることになって。そこから8年近く「無駄づくり」というコンセプトで活動していますが、芸人をやめても活動を続けてこられたのは、小さいころからモノづくりが好きだったことと、この活動で自分自身が救われるような感覚があったからだと思います。

父がデザイナーで当時は珍しかったMacのパソコンが家にあり、小学生のころからイラレ*で遊んだり絵を描いたりしていました。中学、高校の頃には、ブログのバナーを作ったりして。でも上手くはなかったんです。何度作っても自分の思い描いているものが作れず、周りと比べても下手な方だと感じていました。 *グラフィックデザインツール

それに対して「無駄づくり」の作品は自分が好きか、どんな形が一番心地良いかという自分の感覚を軸にしています。クオリティを気にすることもありません。

「無駄づくり」は自分の内面的なもののアウトプットなんです。世の中の無駄なものをわざわざ探して作っているのではないので、作品が有用なものになったとしても、それで良いと思っています。

グフ肩パッド,藤原麻里菜氏,無駄づくり
「グフ肩パッド」。なで肩の人もトートバッグがずり落ちるストレスから開放される。

仕事としての「無駄づくり」

個人製作だけでなく、スポンサードのコンテンツ作りもされていますが、マーケットを意識した作品は作られたりしないのでしょうか?

個人製作の「無駄づくり」でも動画を公開していますし、前提として人に見せるものということは考えますね。

作品のアイデアは客観的に観察するようにしています。

例えば、自分だけにしかわからないようなネタとか、自分だけしか笑えないことは排除します。公開するコンテンツである以上、人が見て心地よいものでないと、良いものではないと思うからです。

アイデアを客観的に考えるには、どのように考えたらよいでしょうか。

『考える術』の中でも触れていますが、自分と立場が違う、具体的な人の顔を思い浮かべます。例えば母の顔を思い浮かべて笑ってくれそうだなと思ったら、自分から母の世代まではウケるものになるのかなと。

他にも、あの友人は喜びそうだなとワクワク感を感じる時もあれば、これを言ったら男性は怒るかなというイメージが沸いてきたりもするんですよね。

ただ、自分の客観性に関してはあくまでも「だろうな」の範囲なので、信用はしていません。無駄づくりは自分一人で考えるということが重要だと思っていて、人に相談することはまず無いんです。

藤原麻里菜氏,無駄づくり

自信満々に絶対にウケると思ってはいないので、お仕事をご依頼いただく方には申し訳ないような思いもありますが・・・無駄づくりは自分を軸にした、すごく個人的なコンテンツなので、そこまで気にしていなくて、ズレていても別にいいやと思っているんですよね。

周りにウケないことをずっと続けていたら仕事がなくなるのも分かりますが、例えば再生数やリツイート数を目標にしてウケそうなものを作って、それがヒットしたとしても、自分の精神が死んでいって、結局辞めちゃうと思うんです。

周りにつまんないと言われても、自分の心が充実するようなものを創れたら、それが良いと思っています。

「無駄づくり」とアート

絶妙なバランスですね。藤原さんにとって「無駄づくり」は仕事なのでしょうか?

仕事に繋げようとして活動する中で、実際に仕事に繋がっていますから、商業的な面と美術的な面の両方があると思います。

作品に価値がつくアーティストとは少し違うと思うのですが、アーティストと共通しているのは、たくさんモノを作って発表するという点です。アーティストも、いくつも作品を創らないと画風や個性、得意な分野って分からないですよね。

私は個人製作をメインにしていますが、沢山の作品を作って公開する中で、自分がどういうものをどれくらい作れるのか、自分にも周りにも認知されてきました。そこから派生して企業からのプロモーションの依頼が来る時は、お仕事として考えて、お引き受けしています。

海外のファンも多い「無駄づくり」は、言葉がなくても通じる点でも、アートに近い感じがします。藤原さんご自身は、無駄づくりを「アート」と言われることに関してどう感じられていますか?

アートとして鑑賞していただくこともありますし、見方は自由だと思っています。でも、自分からアートだとは言わないようにしていて、作品を売ることもしていません。

アートとしてやらないといけないことが増えるのも嫌ですし、何より作品自体に価値がついてしまうのが嫌なんですよね。

自分の作った作品に凄い金額がついたら「そんなすごいものじゃないぞ」と思うし、需要がなかったらそれはそれで嫌だし。1点もの、みたいなのも嫌ですね。感覚として、自分の作ったものに価値がつくというのがよくわからないんです。

売るとしたらプロダクトとして人に届けるのは面白いと思っているので、これからも取り組んでいきたいです。アートとして作品を売ることは今後もないと思います。

ヨミコミュ,藤原麻里菜氏,無駄づくり
明和電機×無駄づくり「ヨミコミュ」。無駄づくりコンテンツ「オンライン飲み会緊急脱出マシーン」がプロダクト化された。

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プロフィール

インタビュイー

藤原 麻里菜(ふじわら・まりな)氏

藤原麻里菜氏,無駄づくり

1993年生まれ。コンテンツクリエイター、文筆家。頭の中に浮かんだ不必要な物を何とか作り上げる「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。 2016年、Google社主催「YouTubeNextUp」入賞。 2018年、国外での初個展「無用發明展-無中生有的沒有用部屋in台北」を開催、25,000人以上の来場者を記録。

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