経営コンサルタントという職業は、クライアントの経営課題について考え、立案した内容を正確に伝え、実行に移すことがその本質です。
ひと昔前は「鉛筆と紙で勝負する職業」といわれたように、「考える」ことにとことんまで向き合うことを生業とし、それに対して対価を頂く仕事ともいえます。
本稿では、これまで20年間一貫してコンサルタントとして活動してきた経験から、ビジネスにおいて「考える」とは何をすることなのかを紐解いていきたいと思います。
1.出発点としての「論理的な思考」
事業課題について「考える」、とりわけコンサルタントが「考える」という言葉からまず想起するのは「論理的な思考」でしょう。Fact(事実)&Logic(論理)といわれるものです。
コンサルティング会社に入社してまず耳にタコができるほど徹底的に学ぶものはこれです。
いわゆるロジカルシンキングといわれるもので、その手のノウハウ本や思考法を学ぶ講座などが一般化してきていますのでここでは詳細は述べませんが、基本的には「唯一絶対の解」が存在することを前提としてそれを正しく考える、という姿勢に基づきます(『AならばB』と事象の因果を探ったり、『AであるためにはBかつCならば成り立つ』などの関係性を考察したり)。
この思考法自体はなかなか日常生活で実践できるものではなく、ある意味スポーツ的に習得することが必要です。
よいバッティングフォームが頭で分かっていても、実際にヒットを打てるとは限りませんし、習得のためには素振りもバッティング練習も必要になるのと同じです。「ビジネスにおける言語のようなもの」と例えたりしますが、外国語を学ぶように一定の修練が必要な「技能」といえます。
一方で、もちろん人によってその速度は異なりますが、コンサルティングファームに数年いれば一定のレベルには達するのもこの思考の特徴であり、同じように事実(Fact)を発見し、同じように思考すれば、誰でも同じような答えが導き出せるという性質のものでもあります。
当然、一定のトレーニングを積みさえすればコンサルタントでなくても同じことができるようになります。
2.重要な答えに最短で近づく「仮説思考」の重要性
この技能が一定レベルにまで達すると、次にぶつかるのは、闇雲になんでもかんでもリサーチしてFact(事実)を探して論理を考えるのは非効率だし、時間に限りがある中で重要な問題にたどりつかない、という問題です。
その問題を解決するのに役立つのが「仮説思考」です。
「仮説思考」では「多分こうだと思うので、それを証明するためにこういう事実(Fact)を集めることが必要」とゴールから逆算して情報収集をしていきます。
仮説とは「論点に対する仮の答え」といえますが、では論点とは何かといえば「答えが分かれば最終的な答えに近づく問い」と定義できます。
その問いに対する仮の答えが仮説なわけですが、最初の段階ではいわば「根拠のない思い込み」ともいえます。
それを検証して違っていればまた別の仮説を立てて検証しにいくための、あくまで「仮」のものなわけですが、仮説の中でも結果的に答えに近いものと、全く遠いものがあり、前者のことを「筋が良い仮説」と呼んだりします。
仮説を思いつくのは人なので「最初から筋の良い仮説を思いつける人」とそうでない人がいることになります。
トレーニングによって論理的な思考ができるようになったコンサルタントが次に苦しむことが多いのは、仮説の精度をいかにして高めるか、という問題です。
プロフィール
本コラムの著者
占部 伸一郎(うらべ・しんいちろう)氏
2001年東京大学経済学部卒。新卒で株式会社コーポレイトディレクションに入社し、19年間の間、一貫してコンサルタントとして活動。2012年にパートナー就任し、CDIの経営に携わる。途中、三菱商事の金融事業本部M&Aユニットへの出向経験がある。Fringe81株式会社社外取締役を兼任。経済ニュースメディア「Newspicks」プロピッカー
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