考える技術【第2回】基盤とすべき思考習慣(1)

第1回では、考えることに関して、経営コンサルティングでの経験とそこから得た私の見方を示した。第2回及び第3回では、それらをベースとしつつ、あらためて考察し具体化した方法論を紹介していきたい。

これは、コンサルタント・一般のビジネスパーソンの新人から中堅マネージャー層までを対象として念頭に置いたものだ。考えることについての本質を突きつつ、最大限プラクティカルなものに落とし込むことをスタンスとした。

考えることで成長し、本質的に他者と差別化するために重要なのは、手法論でなく習慣論だ。どういう思考習慣をつけるかだ。このアプリがよい、ではなく、どうOSを高めるかの議論をしていく。

また、考えることについての著書や意見が溢れる中で、ビジネス現場の臨床の視点にこだわり、理屈の完全性よりも現実と有効性を重視した。

[第1回の記事はこちら]

考えることにおける「気づく」ことの価値

まず、最近のビジネス関連の現実を見渡して、考えることについて何が起きているかを概観したい。

あなたの回りで、考えることに優れる人とそうでない人の違いは何かを思い起こしてみて欲しい。あるいは、考えたことの成果が見えたとき、「この人よく考えてるな」と思うのはどういうときだろう?

私は、こういった観点で最近のビジネスの経営~現場レベルで起きるさまざまな事象を観察すると、「ある問題を考えに考えて解決策を導いた」というよりも、「何かに気づいた」という感覚の方が、考えることの成果に近い場合が多いと見ている。

例えば、上司が部下の報告を聞いて「この点は大丈夫か」と確認するとき。分析作業のエクセルシート上で数字を見て「このデータは間違ってないか」と問い直すとき。

営業マンが顧客と対面し交渉する中で「この顧客にはむしろ別のサービスを薦める方がよいのでは」と直感するとき。「明日の顧客ミーティングでは先方の課員全員が出席する可能性があるので資料を多めに用意しよう」と準備するとき。

経営者がすれ違った社員の顔色を見て「何か沈滞ムードを感じるな」と思うとき。スタッフが新規事業テーマを考える中で「むしろ新しいことに手を出すより既存事業を伸ばすべきでは」と実感するとき・・・・。

これらのビジネスの日常を見ると、 瞬時に気づくものも、熟考後に気づくものもあるが、「気づく」と呼べる感覚のものだ。 「よく考えている」というのは「気づく」という現象に近いと思う。

問題解決や分析の手法論(例えば「イシューツリーで整理する」)なども同様だ。

研修では例題が与えられうまく使う練習が行われるが、実際にはこれらの手法論を、誰にも「使え」と言われない状況で、ここで使おうと気づくかどうかが重要な場合が多い。

いったん気づけば、最近ではうまい整理の仕方や使い方はすぐに検索もできる。

これらとは相反するが、例えばM&A案件の審査・判断といえば、経営戦略マターとして最高レベルの知識と思考が求められる、と見なされるもののひとつだろうが、最近ではそれを行う会議での議論は意外に盛り上がらないことも多い。

スタッフレベルの検討作業は網羅的に定型化され、シナジーも指標もリスクも経営ビジョンとの整合性も作業上で詰められたパッケージが提案されてくるため、それをさらに追求する余地は小さいからだ。 こういった典型的・本格的問題解決は、今はパッケージ化され極論すれば誰がやっても同じで差別化しにくい。

20年くらい前までは、ここにビジネスの醍醐味がある、と言ってもいいくらいのテーマだったが、現在はだいぶ様相が違う。 こういった重厚な問題解決でこそ考える価値が発揮されると見られがちだが、実はそうでなく、「気づく」程度のことの方が考える価値を発揮する局面が増えている。

これは前回私が述べた戦略コンサルティングとして実践していたことと重なる。

誰もが普通にやることを同じようにやるのでなく、そのテーマの外側・周辺で何かを見つけ価値を出すこと。それは、予め設定された問題を解くというより、その外側・周辺で「何か」を見つけて差別化するということ、すなわち何もないところで「気づく」ということ。

ネットを介した情報利用と検索技術が拡張する中で、解法・手法は誰もが共有・検索できるからこそ、人の考える価値はその外にある。

逆にいったん「気づき」さえすれば、具体的な解き方は頭に頼らずとも、即座に検索・入手できる時代になっている。

私は、考えることについて、気づく(と呼べる)領域の価値の増大が、ビジネスにおけるひとつの潮流となっていると思う。

価値ある気づきを生む、問いかけの技術

では、どうすれば「気づく」ことができるか。ひとつの有効な方法は、何もない中で(誰にも言われなくても)、自分に「問いかける」ことだと思う。

数学の問題を解くような熟考というより、自分の頭の中で自由に具体的な言葉にして自分に問いかける。第1回でも白地を掘るような作業と記したが、掘るというのは、自分自身に「問いかける」ことだ。何もない、誰にも聞かれない、多くの人が見過ごしてしまうところで発見することなので、意識して能動的に自分に「問いかける」努力が必要だ。

その量で何かを見つけられる可能性が決まる。また、問いかけの経験量を蓄積することで、色々な事象に触れた際の瞬間的な気づきについても可能性が高まるものだと思う(この経験・蓄積については第4回にて解説する)。

若いコンサルタントや顧客企業を指導する際、「こういう観点で考えてみるとどうか?」といった指摘をするだけで、答えを示さずとも、独力で正解にたどり着くことも多い。

逆に言えば彼らは、自分でその観点を頭の中で問いかけていれば、私の指導など不要だったわけだ。そういう際に、多くの若手コンサルタント、ビジネスパーソンは、まだまだ問いかけの量が足りないと感じる。

問いかけの量は決定的に重要ではあるが、それを少しでも効率的に行う、すなわちヒット率を上げる方法はないか?

私がこれまで若手コンサルタントや顧客企業社員を指導・アドバイスする中で、どのような内容が多かったかを考えてみた。すると、いくつかの重要な観点が浮かび上がった。

すなわち、コンサルタントやビジネスパーソンがものを考える際に、よく見落とす観点、見落とすことによって間違えてしまう観点だ。

それは以下の4つである。

  1. 分ける
  2. 疑う
  3. 他人の立場で
  4. で、どうするのか

このような素朴な言葉を羅列すると、それくらい自分はできている、少なくとも理解している、同様の概念はよりスマートな言葉で本に書いてあったといった反応もあるだろう。

しかしながら実際、多くの人はこれらの点でできていない。そして、できていないことの上位にくるのがこれら4つの点だ。問いかけとしては最も「当たる」確率が高いということだ。

その対象は、若手ビジネスパーソンはもちろん、考えることに自信を持つコンサルタントのシニアマネージャー層ぐらいまでを含む。彼らを指導し何かしら改善点があるとすると、この4つのいずれかに当てはまる場合が多い。

このように、考える技術として私が提示したい思考習慣とは、他の人が見逃して通り過ぎるような何かを見つけ気づくために自分に意識的に問いかけを行うこと、そのために上記4つの観点を用いてみることである。

自分の頭の中で、「分けられないか」「疑ってみよう」「他人だったらどう思うか」「で、どうするのか」と言葉にしてみることだ。10回やれば1回くらい何かに気づき、よい考えに結びつくかもしれない、それくらいの気持ちでやり続けることだ。

これら4つの観点の各々について、以下に解説する。

気づきをもたらす問いかけの観点 ⑴分ける

ここでの分けるとは以下のふたつの意味合いを持つ

  • a.複雑な事象や多様な意見をいくつかに分ける
  • b.ひとつの抽象概念をいくつかに分ける
  • a.複雑な事象や多様な意見をいくつかに分ける

例えば会議などで自由に意見を出し合うと、論点がかみ合わないまま多様な発言がなされて明確な結論が出なかったり、中途半端な議論のまま終わることは少なくない。政治家の議論やテレビの討論番組などもその典型だろう。また、会議以外でも、あるテーマについて人により見解が異なったり、自社と取引先などの社外との主張の対立もある。

このような際に、状況が複雑であると、そもそも対立軸自体がずれていたり混同されて議論が噛み合わない場合も多い。コンサルタントとしてこのような状況によく触れるが、議論が分けられていないケースがあまりに多い。「分ける」ができていないのだ。

あるいは、数十分程度の会話の中でも、ある人の意見がいくつかに分かれることも多い。話は次々に展開するし場合によっては相矛盾する話も出る。これらもきちんと分けて理解する必要がある。

部下が顧客面談の様子を上司に報告するときも、「先方のリクエストはまとめると以下の3つです」といった形ではなく、単に言われたことを言われた順に話す場合が多い。簡単な報告やメールなどにおいても、分けるべきだが分けられていない状況はたくさんある。

こういった状況において、「議論を分けてみよう」とアドバイスすれば自力で分けられる人は多く、分けること自体は決して難しいものではない。「分ける」べきことに気づいていない、つい見過ごしてしまうだけだ。

会議やあるテーマで多様な意見が見られた時や個人の話を数十分以上聞いた時、頭の中で「分ける」を自分に問いかけてみるとよい。

  • b.ひとつの抽象概念をいくつかに分ける

ひとつの命題を真正面から取り組むよりも、いくつかに分けると解くべき問題が見えてきたり、議論が具体的に進むことは多い。

「あなたの会社の課題は何ですか?」と聞いた後に、「営業面の課題は?」「生産面の課題は?」「管理面の課題は?」・・・と分けて聞くと、当然だが、最初よりも多くの課題が挙げられる。

こういったガイドを自分の頭の中で行えば、ひとつの命題に対して多くの発想が得られる。

私はコンサルタントとして、顧客企業との議論の流れの中で、何気ない話題、例えば「うちの会社のマネージャーは部下のマネジメントができていない」といった断片的な声を聞くと、詳しい話を聞く前に、自分なりにどのような可能性があるかを、「分ける」ことで考えておくことが多い。

・ そもそも部下のマネジメントをする必要があるのか?できないと何が問題なのか?

・ 「部下の」ではなく、「対人の」ではないのか?あるいはそれらに限定することなく「マネジメント全般ができない」のではないか?

・「部下の」であれば、部下側に原因・改善余地はないのか、原因はマネージャー側だけなのか?

・マネージャー側の問題であれば、マネジメントする意思はあってもできないのか、意思がないのか?

・意思があってもできないのは、進捗管理等で合理的に部下の問題を発見できないのか、できてもうまくコミュニケーションできないのか?

等々、色々な可能性が浮かぶ。

もちろんこれらを論理的に整理して構造化すればなおよいが、とりあえずは、いったん「分ける」ことで細かな論点を挙げれば考えはだいぶ進む。

私がもし経験の浅いコンサルタントと違いがあるとすれば、ちょっとした話題においても見逃すことなく、こういうことをより丹念にやっているということだと思う。

「イシューを分解する」とも言えるこのような技術自体は、研修等でもよく扱われ、多くのビジネスパーソンが「やれと言われればできる」ことだ。それでも実際には、「分ける」はできておらず、見逃されて放置されている。

「頭では理解しても実行できない」という性格とも違う。「分けてみよう」と気づいていないだけであり、「分ける」をキーワードに自分に問いかける思考習慣をつけることこそが重要だ。

自分はできていると思っている人は、それは自分が気づいた範囲での話だ。私から見ると、問題は、その人が気づいていない部分があるということで、そこに成長余地がある。

今回は、4つの観点のうちの(1)分けるを解説してきた。第3回では残りの3つについて議論していきたい。

[第3回の記事はこちら]

プロフィール

本コラムの著者

細田 和典(ほそだ かずのり)氏

東京大学工学部、同大学院卒業後、株式会社コーポレイト ディレクション、ブーズ・アンド・カンパニー(現PwCコンサルティング合同会社)にて25年以上にわたり経営コンサルティングを経験。 その後、原子力損害賠償・廃炉等支援機構参与、プライスウォーターハウスクーパース株式会社顧問を務めた。株式会社プロレド・パートナーズ監査役。

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