「クリエイティブ思考」のはじめ方【後編】

[前編の記事はこちら]

クリエイティブ思考とは、アーティストの思考方法を利用し、ビジネスにおいて新しい価値を生み出そうという考え方です。前編では、既存ビジネスでもアートのような「深さ」と「共感」による価値の創造ができるのではないか、その具体的方法として、私が実践してきたクリエイティブ思考の流れを説明しました。

私のクリエイティブ思考は「共感」から生まれるクリエイティブな発想からはじまりますが、後編ではその「共感」の部分において、私の考え方と具体的な方法をお話します。

共感の無いところに新たな価値は生まれない

共感がクリエイティブな発想を生むことは前回お話した通りですが、共感はイノベーションにおいても欠かせません。

海外で広まっていたデザイン思考は、日本では受け入れられず広まりませんでした。その原因は、経営側がデザイナーを下に見ていたからです。

欧米ではデザイン会社を買収した場合、デザイン会社から役員を立てるのは珍しくありません。一方、日本でこのようなデザイン会社の買収があっても、そこから本社への役員が出ることは希でクリエイティブ側の人材はそのまま全員本社の配下となり、対等な立場に置かれないことがほとんどでした。

ビジネスに限らず全ての場で、上下関係や上から目線の一方通行なマインドは「共感」を失わせます。 ダイバーシティーで日本が遅れているのは、この「共感」力が低いからと言っても過言ではないでしょう。

現在、私は大学教授として働いていますが、教育の世界にも似たような世界があると感じています。元コンサルタントならではの視点かもしれませんが、大学にとって学生は、クライアントのような存在なんですよね。授業料というフィーを払っている学生に対して、教授が偉そうに「教えてあげよう」という上から目線になるのが不思議でした。

教育の現場でも、教授側がやり方を教えてあげる、教えて育てる世界なのだと思い込むならば、もう学生は受け手にしか見えなくなり、両者間の共感は無くなります。

以下に説明するように、互いを尊重し語り合える共感の環境をつくるなら、新たな価値を創造することができるでしょう。

否定は絶対にしない

ビジネスコンサルタントとしてコンサルティングファームを5社ほど経験してきましたが、ともするとコンサルタントは、自分の考えや情報が相手を上回っていることの分かりやすいアピールとして、否定に走りがちです。

しかしコンサルタントにとって相手の情報のインプットはプロジェクト成功のカギです。本来、クライアントへのヒアリングに際しては、相手がもっている情報を積極的に話しやすい状況をつくるために、否定ではなく共感すべきなのです。相手への否定は、共感のチャンスをすべて奪っていきます。私はまず、相手への否定は絶対にしません。

口で言うのは簡単でも、自分にとって異質なものを「否定しない」ってものすごく難しいですよね。これはもう癖ですから、英単語を覚えるのと一緒で、肯定するトレーニングをすべきです。

アメリカでよく使う「good question」とは上手く言ったもので、まずい質問でも「いい質問だ」という言葉から始めてお互い良い気持ちになれば、共感しやすくなります。定型文でもよいので、頭の中に褒める言葉をいくつかもっておいて「それおかしくない?」と否定しそうになるところをグッと我慢して「すばらしいですね」って言ってしまえばいいのです。

最初はいやいやでも、肯定の言葉を癖にしているうちにだんだん心もついてきます。否定せずに一旦受け入れようと思えば、表情や話し方も変わってくるはずです。結局心から思っていなければどこかで相手に伝わりますから、前提として、本当に「相手のためを思っていること」が大切になるでしょう。

相手のためを思う

初対面の相手とどう共感するのかというと、相手のためを思うことです。

「この人と私の共通項は何だろう」「この人は何をすれば喜ぶんだろう」など、とことん実践すれば、コミュニケーションが生まれてきます。新たな価値を生むには、この「相手のためを思うこと」が一番大切です。

私がコンサルタントとして様々な業種の方とお話するたびに感じていたのは「この人たちをもっと助けてあげたい」ということです。

コンサルタントの一番の役割は、クライアントの事業の素晴らしい価値を第三者の立場から自信をもってお勧めして、事業に自信をもってもらい、その素晴らしさを存分に発揮していただくことだと思っています。

相手のもつ素晴らしい価値に気づいてもらおうとするなら、相手を否定する必要はありません。相手のためになりたいと思っていれば、一緒に語り、共感しながらプロジェクトを推進させていく大切さがわかると思います。

プロフェッショナリズムを持って取り組む

共感を生むには、プロフェッショナリズムをもつことも大切です。プロフェッショナリズムとは、物事を「誰のために」やっているのか意識して、適当にこなさず、一生懸命やることです。

そう思えたきっかけは、私がアクセンチュアのマネジャーだった頃の上司で、アバナード株式会社代表取締役、安間裕さんの言葉です。

手いっぱいの仕事に追われボロボロになり、コンサルタントが嫌になった当時の私に、彼は「お前は客と泣きながら抱き合ったことはあるか」と訊ねました。当時の私は、プロジェクトを終えたら疲労困憊で、もうお客さんには会いたくない、とにかく休みたい、早く次に行きたいと思っていたので「今のままでは泣けないな。もう一歩真剣に、このお客さんのために何ができるかを考えれば、泣けるんじゃないか」と思い、仕事のやり方を変えました。

おかげで以前よりかなりハードワークになりましたが、満足度は上がりました。やらされている感がなくなって、お客さんのために考え抜くと睡眠不足でも気持ちがよかったのです。実際にお客さんと涙してプロジェクトを終えられた時に「コンサルってなんて素晴らしいんだろう」と感激し、気づけば約20年もコンサルファームを渡り歩き、大学教授となった今でも、安間さんに誘われてアバナード株式会社の最高顧問を勤めるに至ります。

辛かった時に「こなす」方へいかず、その先の「お客様を喜ばせる」という基本的な所に戻ってこれたので、今があるのだと思っています。音楽でもうまくいく人は結局「誰のために演奏しているか」に戻ってきますし、はっきりと誰かを思って物事に取り組むなら、最後にその誰かの心を動かし、共感できるでしょう。

経営者でもアーティストでも、一生懸命誰かのためを思っていれば、周りの人も「この人は本当に命がけでやっている」と感じて、自然と惹かれてしまうものです。プロフェッショナリズムをもって取り組むと、人からの共感を得やすくなるでしょう。

身近なことで言えば、SNSに投稿するときも「みんなを動かすためにどうすればいいか」より「これは誰のために書いてるんだろう」と丁寧に届けたい人のことを考えたほうが共感されるんですよね。

これは全てのことに共通しますから、勉強や仕事に対するもの、家族や恋人に対するもの、何でもいいので自分にプロフェッショナリズムをもってやり続けてみてください。自然と共感できる人が集まってくるはずです。

共感のコミュニティを作る

プロフェッショナリズムを持つにしても、自分一人でモチベーションを保つのは難しいですが、前編でもお話したように「共感のコミュニティ」を作れば発想が生まれ続け、モチベーションを高く保てるでしょう。

実はコロナの影響で、大学自体、本年度はリアルでの授業は行えません。ゼミは後期から始まりましたが、エリックゼミは前期から走らせてきました。コロナ禍のような状況でも、共感のコミュニティがあれば、それがバーチャル中心であったとしても、自分だけでなく学生たちもモチベーションを保ってくれると思っています。

今、「ゼミをメディアにする」ということを実践しています。これは新しい考え方で、メディアとは「共感のコミュニティ」だと考えているからです。例えば、エリックゼミのレポートは全てnoteで公開*しています。(*「エリックゼミ 変革の軌跡/松永エリック・匡史と変革のメンバー」)

私はもともと、学生が書いたレポートを先生だけに提出して、先生だけが読んで採点する方法に疑問を感じていました。

本来学生たちの書いたレポートも、得た知識も、考えたことも、全て彼らの資産であり、宝物と言っていいものです。(NDAの契約などがない限り)自由に公開する権利があるはずです。

レポートだってSNSを使い平等にソーシャルの人たちへ公開すれば、多くの人の共感やフィードバックが集まり、私一人が採点するよりフェアだし、はるかに有益だと思います。外部からの評価も全て彼らの資産になります。

ゼミ内では教授が教えるという一方的な環境でなく、お互いに共感できる立場でいたいので、今公開しているエリックゼミのコンテンツには「Z世代とメディアの関係」なんて、私には答えがわからないことでも課題にしていて、私自身も勉強させてもらっています。彼らは当事者なので書けますよね。

私から伝える経験談やフレームを使った思考方法も、教えてあげるというつもりは全然なくて、学生にとっては一つの考え方のサンプルに過ぎないと考えています。

もちろん、ゼミの学生も成績で選んでいません。私と共感できるかどうかが基準ですので、どんなに成績が悪くても、お互いに刺激し合える「共感」があれば良いのです。

また、共感のコミュニティを更に広げるため、学生以外にもグローバルで活躍する社会人をエリックゼミの「アドバイザー」として迎えています。アドバイザーも共感を大切にしていて、学生と語り、そこから生まれる何かを楽しんでくれる方ばかりです。さらにこれからは、高校生や中学生など、共感できる人を学歴関係なく誰でも集めていきたいと思っています。

私に共感してくれる人とは、名刺を交換するだけのような浅い関係ではなく、共に深く考え抜ける関係を築きたいと思っています。多くの方とどんどん共感していきたいので、私のSNSも常にオープンにしています。興味がある方は私にコンタクトしてみてください。

これまでお話してきた私のクリエイティブ思考も、ひとつの考えに固まらず、様々な人と共感する中でどんどん変容させていきたいと思っています。

プロフィール

青山学院大学 地球社会共生学部 教授

松永 エリック・匡史(まつながえりっく・まさのぶ) 氏

松永エリック・匡史氏

青山学院大学大学院修士課程修了。15歳からプロミュージシャンとして活動。SEを経て、コンサル業界に。アクセンチュア、野村総合研究所、日本IBM、デロイトトーマツコンサルティング メディアセクターAPAC統括パートナー・執行役員、PwCコンサルティング デジタルサービス日本統括パートナーを経て、2019年より現職。

新着記事

ビジネスにおけるシンカを問う ビジネスにおけるシンカを問う

本メディアは、著名人の考え抜いた経験や
考え抜かれたビジネス、
考え抜く方法論などに
フォーカスした記事を通して、
「think Out」のための
ヒントをご提供することを目的としています。

thinkOutについて