【テレワークをどう捉えるか?】新しい仕事のスタイルをあみだす考え方

休業、テレワーク、人の少ないオフィス。新型コロナウィルス感染症の拡大は、私たちの仕事を変えてしまいました。

「ピンチはチャンス」といいます。でも、今の「ピンチ」はチャンスに変えるにはあまりに破壊的です。休業・廃業に追い込まれた方たちがいる中、「チャンス」という言葉を口にすること自体、無神経だと批判されてもしょうがないです。

でも、それでも、誤解を恐れずに言わせていただけるなら、今こそ、新しい仕事のやり方をあみだす絶好のチャンスだと思います。

たとえば、テレワーク。テレワークをこれまでの仕事の「代わり」と捉えると、「どうやってテレワークで“こなすか”」「テレワークだと、これまでの仕事の8割程度しかできない」という風に考えがちです。

ところが、テレワークを全く新しい仕事のスタイルと捉えれば、これまでの仕事のやり方にとらわれずに、テレワークだからこそできることを考えることができるはずです。

新しい仕事のやり方を、考える力を使うことでどうあみだすか。以下、クリティカル・シンキング(考える力)とクリエイティブ思考を組み合わせた「あみだし方」を説明したいと思います。私自身の経験をケーススタディとして使っています。

ケーススタディ:いきなり「オンライン授業をせよ」と言われた。さあ、どうする?どう考える?

私は大学で「考える力」と英語を教えているのですが、今回のコロナの影響で、大学も授業を全面的にオンライン化することになりました。正直、当初は「そんなこと急に言われても困るよ」と思いました。私の授業は対話式ですし、長年教室でやってきた授業内容をオンラインでやるなんて無理、と反射的に思いました。

今までやったことのないことをやれと言われて、私のように無理だと感じる人は多いと思います。もしかしたら、そう感じるのは、事態がよくわかってないからかもしれません。未知のものってなんだか怖いですし、拒絶したくなりますから。

1. 理解する・調べる

「考える力」は【理解する→意見を持つ】の2ステップから成り立っています。米・ハーバード大の教育プロジェクトも強調していることですが、考える時にはこの「理解する」が非常に大事です。

ところが、私たちは「理解する」をはしょってしまうことが非常に多い。SNSで怒涛のように流れてくる情報や、わかっていると“思い込んでいる”ことを、私たちは本当に理解しているのでしょうか。理解しているかどうかを確認する前に反応し、意見を発信してしまう…そういうこと、ありませんか。

考えるというのは自分なりの意見を持つということです。自分なりの意見を持つためには、その意見の対象となっているモノ・人・状況などをまずはしっかり理解しなければなりません。

オンライン授業の例で言えば、オンライン授業についてどう思うか、どんな授業ができそうか、という意見を持つ前に、まずは「大学はどんなオンライン授業を求めているのか」「オンライン授業を取り巻く環境はどうなっているのか」などを理解しなければならない、ということですね。

私は当初、オンライン授業というのは「ビデオ会議ツールを使って学生とリアルタイムでつながる授業」だと思っていました。しかし、調べていくうちに、この理解が間違っていることに気づきました。

大学生の中には、インターネット接続環境が良くない人もいます。スマホのテザリングでwi-fiにつないでいる学生もいれば、端末の機種が古かったりして、うまく接続状態を保てないこともあります。そういう学生たちを取りこぼすことなく、皆が確実に学習できるようにするためには、リアルタイムでオンライン授業をやるわけにはいきません。

学生1人ひとりの状況に応じて、資料や動画などに適宜アクセスできる非リアルタイム方式が望ましい、ということがわかったのです。

2. ゴールを決める

状況が理解できたら、次はゴールを決めます。オンライン授業の例であれば、「オンライン授業をすることで行き着きたいところはどこか」を決めます。「絶対に手に入れたいものは何か」と考えてもいいですよ。

今回のオンライン授業で私が絶対に手に入れたいものは、「学生皆が確実に授業内容に取り組めること」です(ちなみに、オフライン、つまり従来型の授業のゴールなら、「皆が前のめりになること」)。

ゴールは1つに絞ってくださいね。ゴールが複数あると、どこに向かっていけばいいのかわからなくなりますから。

3. ゴールから逆算して考える

ゴールが決まったら、どうすればそのゴールに確実に行き着けるか、逆算します。

逆算というのは、たとえば、10時にA駅に着くためにはどうするか、と考えるのに似ています。10時に着くには9時半に家を出なくちゃ、いや、途中で郵便局に寄るから9時15分に出ようか、などと考える時のように、確実にゴールに行き着く方法をあれこれ考えます。

では、「学生皆が確実に授業内容に取り組める」というゴールにどうすれば行き着けるか、を考えます。私が考えたのは、

  • a. wi-fi接続がうまくいかなくても取り組めるコンテンツにする
  • b. 学生が「1人でも」やりたくなるコンテンツにする

なぜbがあるかというと、wi-fi接続に問題がなくても、コンテンツがつまらなくて学生がやる気がなくなってしまうと「学生皆が確実に授業内容に取り組める」というゴールの達成には繋がらない、と考えたからです。1人だと集中できない、という学生もいるかもしれない。特に今の時期は気持ちがふさいでいる学生も少なくなく、「やってみたい」「楽しい」と思わせる仕組みがないとダメだ、と思いました。

逆算して出てきた考えは、なるべく具体的にしておきます。例えば、

  • a. wi-fiにうまくつなげなくても確実に取り組める →学生に提供するものは、テキスト主体のアナログなものの方が良い
  • b. 学生が「1人でも」やりたくなるコンテンツ →課題や授業内容はとにかくイキのいいものを。見せ方もおもしろくする。学生1人ひとりの回答をシェアしやすい仕組みにする(私の授業は「皆の意見を聞けるのが楽しい」という声が多いので、オンラインでも「皆の意見を聞ける」ようにする)

など。

4. ブレストする

やるべきことの方向性が決まったら、次に具体的に何をやるかを考えます。今回の場合なら、「アナログで、学生に面白いと思わせる仕掛け」にはどんなものがあるか、考えます。

具体的に何をやるかを考えるときは、とにかく思いついたものは手当たり次第書き出すことをおすすめします。「これ、バカすぎるでしょ」「こんなふざけたものはダメ」などと価値付けせずに、ブレスト(=ブレインストーミング。お題に対して答えになり得るものを手当たり次第に挙げていく思考法)していきます。友人や家族と一緒におしゃべりしながら考えると、けっこうおもしろいアイデアが飛び出しますよ。

私は友人に電話して一緒に考えてもらったのですが、その結果、「クロスワードを解かないと課題がわからない仕組みにする」「アナログな『単位履修すごろく』を作る」なんてアイデアが生まれました。このすごろくは、課題を全て提出して単位を修得することを「あがり」とし、「提出期限を守らなかったらふりだしに戻る」「注意事項を守らなかったら1回休み」などとするというものです。

5. 最悪のシナリオを考える

具体的な手段を思いついたら、今度は「その手段を本当にやったとしたら、最悪の場合、何が起こる?」と考えます。どんなにすばらしく見えるアイデアも、実際にやってみたらとんだ落とし穴があった…とならないために、事前に最悪のシナリオを考えるのです。

たとえば、「クロスワードを解かないと課題がわからない仕組みにする」の最悪のシナリオは何でしょうか。

私が考えたのは、「私の授業を受講する学生が30名いたとして、そのうち1人がクロスワードを解いて他の29名に答えを教えてしまう」というもの。これでは、せっかく皆に楽しんでもらおうと思ってクロスワードを作ったのに台無しです…が、よく考えてみると、クロスワードという設定を学生が目にした時に、「何これ」とクスっと笑ってくれるだけでもいいのかもしれません。

最悪のシナリオを考えたら、「もしもそんな最悪のシナリオが起きたら、対処できる?」と自問してください。この問いに対する答えがYESならその手段(たとえばクロスワード)を自信を持ってやればいいし、NOなら、考え直した方がいいのです。

これまでやったことのない仕事法にチャレンジするときは、可能な限り事前に実験すると良いと思います。実際、私は友人にクロスワードの試作品を送って解いてもらったのですが、問題の出し方や見せ方など、解決すべき点が山のようにあることに気づきました。

まとめ

ここで、新しい仕事のやり方をあみだすための手順をまとめておきます。

  1. 理解する・調べる
  2. ゴールを決める
  3. ゴールから逆算して考える
  4. ブレストする
  5. 最悪のシナリオを考える

今回書いたことは、こんな状況下で「仕事の仕方」を考えていられる者の贅沢論に過ぎないかもしれません。実際、そうお叱りを受けるかもしれません。それこそ最悪のシナリオです。そう思わせてしまったら申し訳ないです。

でも、それでも、私は人間の「考える力」を信じたいです。状況を理解し、ゴールを設定し、逆算して手段を模索して新しいものを創造する。

仕事だけでなく、生活の仕方、生き方について、1人ひとりが考えることで、きっと新しい何かが生まれると信じています。

プロフィール

本コラムの著者

狩野 みき(かの みき)氏

慶應義塾大学、東京藝術大学、ビジネス・ブレークスルー大学講師。考える力イニシアティブ THINK-AID 主宰。著書に『世界のエリートが学んできた 「自分で考える力」の授業』『子どもの「自分で考える力」を引き出す練習帳』など多数。TEDトーク “It’s Thinking Time”(英文)。

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