2.問題解決における「ピラミッド原則」の限界
創造的問題解決(CPS)
従来の知識や経験が通用しないような未知の問題状況に直面した場合、ロジカル思考ではなく、いわゆるクリエイティブ思考が必要になります。ここにも長年培われた方法論が存在します。創造的問題解決(CPS:Creative Problem Solving)というアプローチです。このアプローチの原則は、すべての思考プロセスが2つの思考で成立するという考え方です。二つの思考とは、“発散思考”と“絞り込み思考”です。
- 発散思考(Divergent Thinking):数多くの選択肢アイデア(仮説)を考え出す思考
- 絞り込み思考(Convergent Thinking):選択肢アイデア(仮説)を評価・判断し、最終的に一つの選択肢に絞り込む思考。ピラミッド原則やロジカル思考は、この絞り込み思考に相当します
私たちは皆、日常的に、上記2つの考えを繰り返しています。しかし創造的な考えを生み出すには、発散思考と絞り込み思考を意識して切り分け実行することが必要になります。これがクリエイティブ思考の秘密です。まず、できる限り多くの選択肢アイデア(仮説)を考え出し、その後に、妥当なアイデアを選びます。仮説の絞り込みです。発散の後に絞り込みです。決して、二つの思考をごっちゃに行ってはなりません。
発散思考(Divergent Thinking)
従来の知識や経験が通用しないような状況下では、まず、ロジックを無視して思いつくアイデア(仮説)を幾つも挙げてみます。これが発散思考です。
ここでは4つの鉄則があります。
1.判断を下すな (Defer Judgment):
発散思考のステージでは、決して、アイデアを評価したり、判断したりしてはなりません。一見馬鹿げたような仮説でも構いません。評価や判断はすべて、絞り込み思考のステージで行います。
2.数を求めよ (Strive for Quantity):
出そうとするアイデアの数に大きなノルマを設けます。例えば、15分で100のアイデア(仮説)を出すなどです。数が質を生み出します。
3.他人のアイデアに上乗せせよ (Seek Combinations):
他人のアイデアを発展させたり、そのアイデアとの組み合わせを考えます。自分のアイデアに固執しないようにします。また、他人のアイデアへの上乗せを恥じることもありません。
4.思いつくままを書き留めよ (Freewheel):
頭にブレーキをかけてはいけません。突拍子のない大胆なアイデアを求めるようにしてください。そのようなアイデアにこそ創造的な解決の種が潜んでいます。
人は呼吸をするときに、息を吐くことと吸うことを同時には行いません。深い呼吸をするためには、まずは息を吐ききるようにします。考えも同じです。アイデア(仮説)を出すステージでは決して、そのアイデアを評価したり判断したりしてはなりません。まずアイデアを出しきります。
誰かが今までにないようなアイデアを出すと、すぐに「ノー」という人が多いのですが、それは厳禁です。そもそも、新しいアイデアには必ず何らかの欠点があります。ケチをつけようと思えば、キリがありません。実際、すべてのアイデアがすぐに判断されるならば、当たり前のアイデアしか選ばれなくなります。これではクリエイティブなアイデアは生まれません。
この典型的なツールがブレーンストーミングです。実は私も、考えが煮詰まった時など、時々、“一人ブレスト”をやります。かなりお勧めです。
絞り込み思考(Convergent Thinking)
発散思考で数多くのアイデア(仮説)が生み出された後に、考えのスイッチを切替え、アイデアを選択する絞り込み思考に移ります。
これが仮説の絞り込みです。ここでは、やみくもに良さそうなアイデアを選ぶのではなく、慎重に判断基準を適用します。この絞り込み思考が、いわゆるロジカル思考です。ピラミッドはこの絞り込み思考に相当します。
ただし、ここでは今までとはまったく異なる創造的な解決策が求められているので、通常は、この仮説が絶対に正しいなどの証明はできません。そもそも、ビジネスでは証明できることなどほとんどありません。説得力がすべてです。とりわけ、創造的問題解決での絞り込み思考では、今までとは異なる視点を重視します。ここでの鉄則は、
1.計画的にアプローチせよ(Be Deliberate):
後に疑問や議論が起きないように、計画的に、慎重にアプローチします。
2.目的から外れるな (Stay on Course):
選択肢を絞る過程において、本来の目的を見失わないようにします。よくあることです。
3.長所を見よ (Use Affirmative Judgment):
まずはアイデアの強みやメリットを見ます。限界や改善点を探すのはその後です。
4.新規性を重視せよ (Consider Novelty):
革新的な解決策を求めたいならば、新規性を重視します。人は往々にして、決断を下す段階になると保守的になり、従来型の解決策を選ぼうとします。これでは期待する結果は出ません。
創造的問題解決(CPS)の適用
創造的問題解決、この問題解決手法は、問題を定義する場合にも、解決案を発見する場合にも使うことができます。
CPSでは、問題解決を大きく3つのフェーズに分けます。フェーズ1(問題定義)、フェーズ2(アイデア生成)、フェーズ3(行動準備)。仮説という観点から説明すると
- フェーズ1(問題定義):ここは何が問題かを正しく定義するフェーズです。問題と思われる仮説(問題仮説)を数多く考え出し、正しいと思われる問題に絞り込みます。人は往々にして、先入観などのために正しく問題を定義できない場合が多くあります。
- フェーズ2(アイデア生成):ここは解決案を生み出すフェーズです。解決策となるアイデア(解決仮説)をひたすら出しまくります。アイデアが出尽くした後に、これはという解決仮説をいくつか選択します。
- フェーズ3(行動準備):ここは戦略立案と行動計画のフェーズです。まず、あるべき評価基準(評価基準仮説)をいくつも生み出し、絞り込みます。次に、絞り込んだ基準をもとに、フェーズ2で選択した解決仮説を評価します。こうやって一つの解決案を選び出します。同様に、行動計画も作成します。
最後に:エレベータの待ち時間
最後に、前編の最後で紹介した問題を考えてみましょう。
問題:エレベータの待ち時間
あなたはホテルのオーナー兼支配人。ホテルを改装して増室しました。ところが、客からエレベータが来るのが遅いとの苦情がありました。構造上、エレベータを増やすことはできません。そこで、エレベータの速度を速くしようとしたのですが、出来ませんでした。あなたなら、どうやってこの問題を解決しますか?いくつか答えを出してみましょう。
これは問題をどう定義するかがポイントです。問題を単に「エレベータの待ち時間」と定義する限り、なかなか解決策は見えてきません。ここで創造的問題解決(CPS)の出番です。
発散思考を使って、問題仮説をいくつもひねり出してみます。例えば、「チェックインやチェックアウトなど、エレベータが集中する時間帯の待ち時間を短くするにはどうすればよいか」、「AIを駆使して待ち時間の平均を短くすることはできないか」、あるいは、「エレベータの待ち時間を長く感じさせないようにするにはどうすればよいか」などが思い浮かびます。次に絞り込み思考です。状況をしっかりと精査し、問題仮説を絞り込んだ結果、「エレベータの待ち時間を長く感じさせないようにするにはどうすればよいか」が問題仮説として選び出されたとします。
次にやることは、「エレベータの待ち時間を長く感じさせないような工夫」(解決仮説)を発散思考でひねり出すことです。例えば、エレベータ周りに鏡を置く、熱帯魚の水槽を置く、テレビを置くなど、いろいろひねり出します。最後に、絞り込み思考で、もっとも適切と思われる解決仮説を選び出します。
どうでしょう。エレベータ周りに鏡をおいているホテルは今や一般的ですし、最近では、バーチャル水槽をおいているホテルもあります。どうやら、こんな背景があったのです。
プロフィール
本コラムの著者
山﨑康司(やまさき・こうじ)氏
経営コンサルタントを経て、現在は「ピラミッド原則」や「マーケティング戦略」などの教育活動に従事。著書に『入門 考える技術・書く技術』、『P&Gに見るECR革命』(ともにダイヤモンド社)、『オブジェクティブ&ゴール』(講談社)など。訳書に『新版 考える技術・書く技術』、『仕事ストレスで伸びる人の心理学』(ともにダイヤモンド社)など。ペンシルベニア大学ウォートンスクール卒(MBA)、東京大学工学部卒。
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